エコネコ座と細木さんのスイス・エコツアー
JEE会員 スイス在住 やまのひろみ
“エネルギー転換フェスティバル”のエコネコ座 スイス・バーゼルにて
8月31日から9月8日まで、JEE事務局の細木京子さんが、スイスの私達の家に滞在されました。“エネルギー転換フエスティバル”のキッズプログラムの中で、環境人形劇“エコネコ座”をしていただこうと招待させていただきました。個人的にも長いお付き合いをさせていただいているので、プライベートなご訪問でもあったのですが、短期間のスケジュールは、まるでスイスのエコツアーさながらであったので、報告させていただきます。
私達の住むスイスのDäniken(デニケン)は原発村です。スイスには5基の原発があり、Dänikenには、Gösgen原発発電所があります。巨大な冷却塔からは、子供達が原発雲と呼ぶ、これまた巨大な水蒸気がDänikenの空を覆う事もあります。村の人口は約2700人。その約20%が原発関係者です。
そんな中、我が家は、ソーラーパネルと薪の組み合わせによって、電力、給湯、暖房を賄っています。3年前に定められた法律により今後10年間、ソーラーパネルによりつくられた電力は、1kWh約60円で国に売電します。その収入は年間約30万円ぐらいです。また電力費と諸経費を電力会社に年間約8万円支払います。その他にアルプスの村Tennaと買電契約し、それが年間約4万円です。この村は、世界初のソーラーで動く自然に配慮されたスキーリフトを設置しています。この夏、夫と2人の子供達はそこで過ごし、この村にたゆたう健康さを十分に満喫し、それが縁となり契約に至りました。この電力売買により、年間約18万円の収入を見込んでいます。
細木さんが到着された次の日、同じ村の知人Lambeletさん宅を訪ねました。この家には、雨水の貯水タンク、ソーラーパネル、そして風力発電が設置されています。貯水タンクは庭の土中に埋められています。大きさ10m3のタンクの水は約3週間分です。この家はソーラーだけで、電力、給湯、暖房を賄っています。風力発電はまだ個人宅での設置基準はとても厳しく、屋根の上でなく家の傍に設置されています。「全供給電力の何パーセントを占めているのか?」と質問したところ、「10パーセントも満たないよ、ほとんど趣味、遊びのようなものさ」と答えられました。細木さんは、このお宅のゴミ分別にも目を光らせておられました。一通り見学を終えた後、お庭の葡萄がたわわにぶら下がっている前で、おいしい手作りのケーキをいただきました。Lambeletさんの2組の双子ちゃんと3匹のウサギさん、私達の子供達、皆で穏やかな日曜の午後を過ごしました。
次はバーゼル市にある“ジャン・ティンゲリ-美術館”に行きました。ティンゲリーは画家としてまた、廃棄物を利用して機械のように動く彫刻を制作することで知られています。 Basler Münster教会の側の歴史あるレストランで昼食をとり、木船でライン川を渡り、川沿いを美術館目指し歩きました。するとライン川の川上から水着の人がプカプカ幸せそうに浮いて、川下に下っていきます。“平日の昼間なのに、プカプカしてる人が多いね、ヨーロッパって暢気ね”と言い合いながらも、細木さんは、川辺に散乱するゴミの撮影をされています。そうしているうちに美術館へ。ティンゲリーは思っていたとおり、創意に満ちた発明家です。それは圧倒的でした。消費社会に反対する挑発的なアーティストとしての側面が、とても魅力的です。日本にこんなアーティストが存在しているでしょうか? 日本にこそ、彼のような気骨なアーティストが、今という時代に必要だと感じました。
美術館を出ると、プカプカの人の理由が分かりました。多くの人が川辺で手早く水着に着替え、皆一様にお洒落なビニールのカバンを持っており、脱いだ服はもちろん、靴も携帯電話も何もかもその中に入れています。そして、カバンの紐をひっぱると、空気が入って、カバンが浮き輪に変身するのです。私たちの子供達は膝まで川に入ったものの皆のようには飛び込むことができず、後姿が悲しそうでした。カバンの創意工夫と共に、ヨーロッパの豊かな時間の過ごし方を垣間見ました。スイスで最後の夏日のことでした。
細木さんと一緒に、ビンとスチール缶のリサイクルに出かけました。ビンは白(透明)、緑、茶色に分別します。村では下記の物に対し、ゴミ分別・再利用の指導がされています(文末に掲載)。
それ以外の家庭ごみは、指定されたゴミ袋(35リットルのゴミ袋1ロールは10袋で約1000円、60リットルは約1500円、110リットルは約2700円)を買い、週に1回のゴミの日に出します。スイスにはゴミ処理場が29ヵ所あります。
村を散歩途中、細木さんは犬のウンコボックスに興味を持たれました。犬の散歩道には、等間隔でビニール袋を常備したボックスが設置されており、飼い主は常に犬の紐に、このビニール袋を括りつけ、犬がウンコをすれば、これで取り、口を縛り、ボックスへポイ!と捨てます。私は長い間、細木さんのようにこのボックスに着目しませんでしたが、パリに旅行の際、パリの街がウンコだらけだったのには驚き、ウンコボックスの必要性を感じました。同じヨーロッパでも、パリには公共を清潔にするための、ウンコボックスの発想はないのです。
事前に細木さんに、スイスのどこに行きたいですか?と尋ねたところ、「ゴミ埋立地」と即答されました。「マッターホルン」ではなく「ゴミ埋立地」...夫のAndreasはまずは、チューリッヒのゴミ処理場に連絡をとりました。処理場ではなく埋立地を見学したい人は例がないようです。そこで細木さんの説明をし「だから、彼女は埋立地を見たいんだ!」と念を押して、「わ、わかりました」となり、特別にチューリッヒの11ヵ所あるゴミ埋立地の3ヶ所を特別見学できることになりました。チューリッヒのゴミ埋立地の所長Sieber氏は、私達を温かく迎えて下さり、この見学のために特別に車を用意され、細木さんとAndreasと私は、この日チューリッヒのお客さんとなりました。
最初に見学したのは、Riet埋立地です。焼却ゴミの山の一部には、水が絶えずかけられています。理由を尋ねると「そこにはアスベストが混入し、飛散の可能性があるので、労働者の健康のためです」と。この言葉で見学する心構えが、一気に引き締まりました。高温で焼却されたにもかかわらず、まだ原型を留めるゴミもあります。もうすでに満杯になった場所には、40cm土をかぶせ、そこは一見、森になっています。この森は有害物質を植物を通して知るためか、という私の質問に、単に「綺麗だから」という回答。法律により50年間の地下水の検査管理をするということです。
埋立て前、最後の最後まで、再利用のための分別作業が行われています。スイスでは年間2千万トン以上のゴミが排出されています。その3分の2が建設セクターからの産業廃棄物で、その8割は再利用が可能で、適切な処理と再利用を行う事で、(放射能を除く)ゴミ処理は近年ビジネスになっていると聞きます。一般廃棄物の排出量の一人当たりは、EUの平均を4割上回っています。
次はBruni埋立地です。横に買物スーパーがあり、赤ちゃん、子供連れも大勢見えます。「ここは危険ではない焼却ゴミがあり、浸出水も直接川に流せます」というSieber氏の言葉に一応ホッとしました。
最後はHäuli埋立地です。新しい埋立地で、新しい技術で管理している所です。百万平方メートル、深さは40mの巨大な穴が目の前に広がります。底には、10㎝のアスファルトが敷かれています。その巨大な穴底にコンクリートで固められた部分が見えます。「今からあの一番底の部分に行きます」と、この埋立地を案内していただいたBlumer氏がおっしゃいました。車で山を少し下り、入り口に着きました。中のコンクリートの通路はかなり長いです。空気はヒンヤリしていましたが、通路の壁を触ると、温かいです。Blumer氏は大きい携帯電話のようなものを持っており、それから出る大きな音が、時折通路に響きます。「これはガスマスクです」と壁にぶら下ったマスクの説明をうけました。その上部から陽の光がもれており、外に抜けられるようになっているようです。そこで私は、ゴミ処理は本当に危険な作業なんだと、化学式ではなく体感でやっと理解しました。入り口で気軽に受け取った、オレンジ色のヘルメットやチョッキもそういうことなのです。通路の行止まりには、埋立地から発生した浸出水を浄化をする排水処理施設がありました。この排水データーは、Blumer氏の自宅でも、コンピューターによって管理出来るということです。
埋立地見学が終わり思う事は、持続可能な社会実現に、悠長になってられない!という思いです。でも一介の主婦の私は嘆くのみです。地球がゴミで溢れ、ゴミを枕に寝る日も遠くないと、私達大人は、なんと子供に説明するのでしょう。
最終日は、“エネルギー転換フェスティバル”でのJEE人形劇・エコネコ座の上演です。私達の子供達、11歳のヨーナスがジョリーちゃん、10歳のノアがエコネコ、そしてAndreasがゴミ大王の声をドイツ語で語り、もちろん人形を操るのは細木さんです。ドイツ語と人形の動き合わせの練習をしたのは、たったの2回!でもその緊張も、道中の美しい田園風景でほぐれ、会場に到着。
そこは「エネルギー・キャンプ」と名うって、多くの人がテントをはって、一週間生活されていました。その生活ぶりはもちろん超エコ!食べるものはベーガン、排泄はコンポストトイレ、エネルギーは全てソーラーエネルギー・・JEEカレンダーの見本のような風景です。
ニコニコして出迎えて下さる皆さんに挨拶を終え、すぐに上演準備。その間にもう子供達だけでなく、大人も大勢、集まって来られました。
エコネコ座上演開始!私はビデオカメラを構えました。細木さんの人形の動きと二人の息子のドイツ語の声がよく合ってます。カメラ越しに、人々の反応が手に取るようにわかります。皆、うなずいたり、笑ったり、ジョリーちゃんの言葉に返答したり、反応が上々です。終了すると同時に「ブラボー!」の声と、大きな温かい拍手に包まれました。初のドイツ語でのエコネコ座、成功!です。地球を美しく保ちたいという心に国境はないのです。
その後、細木さんと私が抹茶を点てお茶会をしましたが、思いがけなく子供達がお抹茶がおいしい!と言って、何回もおかわり!そのうち、自分で茶筅を持って、お茶を点て始めました。持ってきた金平糖もアットいう間になくなりました。飲食は人の心を近づけ、茶道や日本語に関する質問も受けました。最後に子供達は日本語で丁寧に「ありがとうございます」。そして折り紙もしました。大人も熱心に、紙鉄砲を打ち鳴らし楽しみました。エコネコ座の成功と皆の笑顔のおかげで、心地よい疲労を抱かえて、家路へ向かいました。
このように約一週間の細木さんの滞在がアッという間に過ぎました。その短期間に、私が細木さんから学んだ事は、手間をかけ、今までどおり暮らしていこうという強い気持ちでした。スイスも日本と同じく、効率重視の社会です。その中で田舎に身をおき、車も便利な機械もなく暮らす中で、私の中に揺れる部分があったのです。でも「お手間入り」の暮らしをこれからも続けていこうと、心が定まりました。また細木さんは私達家族の中に、たくさんの素敵なものをおいていかれました。その一つは、お茶を点てる事。いまでは日常の中でお茶を点て、ホット一息ついています。子供達は「お先に」「ちょっと失礼」等の素敵な言霊をもつ日本語を覚えました。細木さん、これからもお元気でJEEの活動を続けていって下さい。
● 自治体のゴミ分別・再利用の指導
・ 大型ゴミ ・古紙、ダンボール ・剪定枝 ・(有毒物質を含む)廃棄物、特殊ゴミ ・動物の死骸・堆肥になるごみ ・古い瓶 ・スチール、アルミ缶 ・建築のための瓦礫 ・古い油 ・古い金属 ・ペットボトル ・コーヒーマシンのゴミ ・コピー機の絵具のゴミ ・繊維製品 ・毒薬、毒物、染料、塗料 ・電池 ・発砲スチロール ・タイヤ ・アスベスト ・電球 ・コンピューター機器 ・電気機器
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