Japan Environmental Exchange

「日本の全原発を廃炉にするために」

スイス在住、JEE会員 山野弘美


2011年3月11日の大震災とそれに続く原発事故後、私はいつもインターネットをオンにして、ドイツ新聞の放射能の動画に釘付けになっていた。たいてい福島第一原発から、濃い赤の帯が風に流され、北海道、アラスカ側に漂い、その後南にそれて、首都東京の辺りをかすめて、また北に戻っていく。その濃い赤とは高濃度の放射能の帯だ。それをみながら、私は故星野道夫氏の著書の「ノーザンライツ」の中の「幻のアラスカ核実験場計画」の一部分を思い出していた。
「原発実験を目的とした、人工の港をつくろうとする計画、プロジェクト・チェリオットの候補地に、アラスカ北西海岸の原野ケープトンプソンが選ばれたのは、1960年代の初めだった。プロジェクトが進行し、エスキモーの村を医療チームが極秘に訪れて、村人の身体の中の放射能量を調べた。原野に生きてきた人々にとって、放射能とは別世界のはずにもかかわらず、機械は次々に異常に高い数値を示していた。
それまでの核実験のための放射能のほとんどは、成層圏流によって北半球の温暖圏に落ち、その量は北極圏の10倍に達する。にもかかわらず、北極圏に住む人達が内部被爆している理由は、彼らが主食とするカリブーにあった。カリブーは地衣類を主食とする。根をもたない地衣類は、直接空中から水分や栄養を取り入れる。そのため放射能を蓄積することのできる理想的な植物となってしまったのだ。」(星野道夫著「ノーザンライツ」の一部要約)
調べていくと、放射能を取り込みやすい食物があり、地衣類だけではなく、ベリー類やキノコ類も放射能を取り込みやすい植物であるとわかった。私は動揺した。放射能とは無縁な北極圏に生きる人々が内部被爆していた様に、私達家族、特に子供達が、スイスに居ながらにして内部被爆する可能性はないのであろうか。なぜなら、ベリーやキノコはもっとも私達家族が、より好んで食べるものだったからだ。庭には、何種類ものベリーが育っている。子供達は、4月から夏までの間、Tシャツをベリー色に染めて食べる。それを見て、私はとても幸せだったのだ。夫に相談すると、スイスの大気中には異常はないと報告されている、空気中にないのであれば、取り込むこともないのではないか、という意見だった。それでは、放射能に無縁な北極圏に住む人々の放射能の高さは、一体どういうわけか?それに対して、長年夫は反原発運動をしているので、専門家を知っているから、彼らに聞いてみるという言葉をもらったが、私はまだ回答をもらっていない。
外部被爆や内部被爆というのは、その地から遠く離れていればいるほど、そのリスクが少なくなることは、容易に理解できる。しかし放射能核種やその半減期などの情報、「安全宣言」する福島原発事故についての情報、知れば知るほど、私は本当に怖い。大気圏に守られ奇跡のような小さな星に生きて、薄まるから大丈夫だと安穏とはなれない。
結局、前述したプロジェクト・チェリオットはつぶれた。それをやってのけたのは、インディアンの人々とその支援者達だ。「・・・核実験の日は迫っていたし、私達の小さな力でプロジェクトを止めることができるのか、とても緊迫していたの。今と違って国の大きな計画に反対する事が受け入れられない時代だったから・・」と反対派の人は邂逅している。
福島県は年末、「原子力に依存しない社会づくり」を基本理念に、県内の原発全10基の廃炉を国、東電に求める事を盛り込んだ復興計画を正式決定した。この計画を後押し、残りの44基をも廃炉にする底力は国民一人一人にある。今、あわただしい日々の暮らしの中で、少し立ち止まり、「否!」を自ら上げる好機だ。そして私達は「生きとし生けるもの」と思想する国民だ。またテクノロジー技術の独自性は、まるで「ガラパゴス」のごとき進化だと、日本に住む日本人自らが言っていた。この驚くべき哲学とテクノロジー技術は、大惨事の際、常に注目される忍耐力と従順な国民性以上に、世界に貢献し賛辞されるべきだと思う。
この記事を書くきっかけとなったのは、セシウムがほぼ日本列島に飛散していたという研究発表があったためである。

●朝日コムの記事 日米欧の研究チームの調査発表(セシウム137)
http://www.asahi.com/national/update/1114/TKY201111140338.html

●上記(朝日コムの記事)詳細:英語版
http://www.pnas.org/content/early/2011/11/11/1112058108.full.pdf+html
日本語訳
http://www.nagoya-u.ac.jp/research/pdf/activities/20111115_hyarc.pdf?20111115

●朝日コムの記事 文部科学省の調査発表(セシウム134、セシウム137)
http://www.asahi.com/national/update/1125/TKY201111250564.html


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