リミット付幸せ
山野弘美(スイス在住)
去年の末、お父さんになった友達は3ヶ月の育児休暇をとり、その後も育児中心の生活をしている。乳母車で、幸せにうっとりしながら散歩している彼を、よく見かける。
夫のアンドレーアスもそうだった。女性と違い、妊娠、出産できない男性は、育児をする事で、親であることを確認、実感していくのだろうと、夫と生まれたばかりの我が子を、私はこれ以上ない幸せな心地で眺めていたことがあった。
先月、家族の誕生でなく、死に直面した。15年間、ずっと一緒だった犬が死んでしまった。その日、アンドレーアスは仕事とゲマインデ(自治体)議員としての、2つの大切な会議をキャンセルした。理由は、正直に「犬が病気で行けない」だった。それで、通じ
た上、同情までよせてくれた。遺灰が焼場から届いた日、アンドレーアスは、仕事を早く引き上げて帰ってきた。犬と共に過ごした日々を、残された家族で、ゆっくりと心に刻んだ。
生きる事にあくせくすることなく、スイスで生活を送りながら、グローバル資本主義の上位に君臨している恩恵を、私は被っているのだろうと、顔が涙でおおわれている時も、笑顔で満ちている時も、ふと思う。この対極に、圧倒的多数の人達が存在しているのだ。
ハイ・ムーン氏の「Best Collection」をもうご覧になっただろうか? 世界の富の多くは、少数の人々が独占している。その不平等な構造は、地球規模の問題を一層深刻化させ、地球全体に破局的な帰結をもたらしつつある。それを、マンガでみごとに表現されている。もう1つの世界を模索していかなければ、マンガのように、人類は恐竜と同じく博物館行きだ。
砂山の上の幸運に乗っかり続けるつもりは毛頭ない。次世代までの安全保障を勝ち取りたいと思うのだ。
ハイ・ムーン氏は、笑いととも呼びかけている。一人一人が、問題と自分とのつながりを考え、知り、そして行動していこうと。
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