民主の風景「土曜日のマーケット」
山野弘美 (在 スイス)
気持ちのいい秋晴れ。この季節になると、どうしてもカボチャ屋さんの前で「かわいい!」と絶叫してしまう。落葉のようなオレンジ色に黄緑まじりのものや、大きさも形も様々なのが並んでいる。親切にレシピもある。スープにあうカボチャや、スパゲティのソースにしたらおいしいのとか、それぞれに合う料理があるからだ。「どれにしようか」と考えていると、カボチャやさんが色々、丁寧におしえてくれた。皮をむくのが、とりわけ大変なカボチャのことや、「穴をあけて、オーブンにかけて、皮をむくと、スパゲティみたいな中身がでてきねぇ……」私達家族以外にも、人がよってきて、彼女のミニ講義が始まる。カボチャと呼ばれるものには、約300種類ある。日本では、以前、100種以上の在来種があった。伝統品種として保存されている種もあるが、実際食卓にのぼるのは、現在ではたったの3種類だという。1900年初頭の商業野菜の品種の97パーセントは、消滅している。スーパー品種を生み出す、生産者と消費者の罪は深い。スイスには、消滅しかけてるいる野菜の種を収集、栽培、販売している団体がある。もちろん、それらは有機の種だ。ここに居ると、カボチャだって、「カボチャ」でひとくくりにされたくないにちがいないと感じる。だって、こんなに、一つ一つ個性があるのだから。それに、価値を見出せる社会は、まだ未来がある。カボチャをこれほど愛でて、カボチャ型になっているカボチャ屋さんを目の前にして、野菜だけでなく、人間も淘汰されそうな勢いの日本を思った
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