Japan Environmental Exchange

日本のオオカミ ~過去、現在、そして未来?~

(“WOLVES” の記事を許可を得て日本語訳しました)
デイビット・ジャック


 私は長い間、日本では人の居住地が拡散しており、そのために自然動物は生息地を失い、追いやられてきたと思っていました。しかし、1998年に日本に移り住み、仕事をしているうちに、自分が誤解していたことに気がつきました。日本では、国土のたった20~30%にしか人は住んでおらず、残りは風光明媚な山々、森林、農地でした。
  日本に来て間もなく、三峰神社について書かれた記事に非常に関心を持ちました。この神社は、東京の郊外に位置し、オオカミを神として奉っている神社です。関心を持ったのは、以前より、カナダのオンタリオ州にあるアルゴンキン州立公園でいろいろなオオカミとの素晴らしい出会いを通して、オオカミに魅了されていたからです。日本でのオオカミについて興味を持ったので調査をすることにし、以下はその調査から分かったことです。
 200年前まで、日本には2種類のハイイロオオカミが生息しており、ひとつは本州、九州、四国のニホンオオカミ、もうひとつは北海道に大型のエゾオオカミが生息していました。このころ、現れては農地を荒らす鹿は農民にとって有害な動物で、その鹿を狩るオオカミは農民にとって親しい存在でした。そして、収穫への感謝がのちに、いつしかオオカミへの信仰に変わっていきました。
 18世紀の中頃オオカミへの価値観が大きく変化しました。この頃、鹿と獣皮を狩る専門職が割が良く、人気の仕事になりました。その結果、鹿の頭数が減少してオオカミが人里に降りてくるようになったことと、ヨーロッパの影響により人々のオオカミへの考え方が変化していきました。狩人たちはオオカミを競合者とみなし、駆逐するためにオオカミ狩りとその際に毒を用いました。そして、これを機にオオカミは姿を消しました。本州や四国、九州にいたニホンオオカミは1905年、北海道のエゾオオカミは1900年頃を最後に、目撃例がありません。 また、皮肉なことに同時期に鹿肉の需要も減ったため、鹿が過剰に生息することとなり、その結果、保護されてきた森での鹿の害が増えてきました。
 北海道に住んでいる間、旅行案内のパンフレットに狼と一緒に写っている人の写真を見かけました。その人の名前は桑原康生といい、彼にはアメリカのイエローストーン国立公園で行なわれたオオカミの再導入プログラムを日本で成功させるという使命を持っていました。家族と一緒に3種類、20匹のオオカミを育てていました(ホッキョクオオカミ、タイリクオオカミ、アジアオオカミ)。桑原さんは、数えきれないほど、新聞、雑誌、テレビで食物連鎖における捕食者であるオオカミの重要さとオオカミの再導入を呼びかけてきました。また、彼の所有しているログハウスにてオオカミを間近に観察できる学習会を行なっていました。
 特筆すべきことに、康生はオオカミを育てるための外部資金を一切得ていません。彼は普段は英語教師として働き、その収入でオオカミを育てています。しかしながら、20匹を育てるには非常にお金がかかります。オオカミの食糧として、彼と彼の狩り仲間で狩ったエゾシカの肉をオオカミに与えていますが、それだけではとても足りず、自腹を切って肉を購入し与えています。また、教師の仕事以外にセミナーの講師で収入を得ていますが、彼が講師料として受け取っている額を知っていますが、一回あたりの講師料は微々たるものでとても20匹を育てるには足りません。
 何度か話を聞くために伺っていると、康生は日本オオカミ協会を紹介してくれました。
 この協会は丸山直樹博士を会長に1993年から活動している団体で、現在700名強の会員がいます。また、オオカミの再導入計画もその活動に含まれます。会長の丸山直樹博士は野生動物保護学を専攻している東京農工大学の教授で、空いた時間をできる限りボランティア活動に割いています。彼はオオカミについて研究しており、14年間にわたり学生等にオオカミの尊厳について教えてきました。オオカミに関心を持ったのはポーランドでの野外調査の際に、森林地区の端で二頭の野生のオオカミを見たことがきっかけだそうです。また、現在は中国での狼の保護に熱心に取組んでいるそうです。
 現在、行政に対して日本オオカミ協会がオオカミの再導入計画を提言する機会が与えられていないため、の再導入計画の目処は立っていません。政府は現在の所、狼よりもアライグマ、猿、そして外来生物に関心が集中しているようです。この他に日本オオカミ協会が直面している問題に一般の人がオオカミに対して持っているイメージと政府が官僚主義であることがあります(日本では物事が変化するのが非常におそい)。特にイメージの問題は大きな問題で、熊の研究者でさえも、オオカミの再導入が圧迫されている熊の生息数を一層危機にさらすのではないかと計画を疑問視するぐらいです。再導入地の候補としては知床国立公園と日光国立公園が挙げられています。その他の場所も検討されているのですが、地元の農業従事者よりの強い反対が心配されています。
 今では日本で野生のオオカミを見ることはできません。もし見たという人がいても、それはおそらく犬もしくは逃げ出したペットでしょう。私はできれば生きている間に再導入されたオオカミを見てみたいものです。再導入されるだろうと楽観視しているので、再導入された際に見に行こうと計画しています。日本では自然への関心が低くなっていますが、辛抱強いロビー活動により、いつの日にか再び関心が高まってオオカミが再導入される日が来るのを待っています。
 米国北西部のイエローストーン国立公園に行われたオオカミの復元プログラム。開拓時代の1920年代に滅ぼしたオオカミの復活に向け、政府が90年代半ば、カナダから31頭を輸入しました。現在は、約250頭に増えています。増え過ぎていたヘラジカが減るなどの効果が表れだしました。

★この記事は、桑原康生氏との対話と丸山教授から頂いた情報を基に書いています。お二人に深く感謝いたします。もし、より詳しい情報が必要であれば私か日本オオカミ協会にお問い合わせください。

■日本オオカミ協会

183-8509 東京都府中市幸町3-5-8 
東京農工大学農学部生態系計画学講座内
Tel&FAX:042-367-5738

■筆者:David B. Jack

URL:http://www.davidbjack.com
E-mail:david@davidbjack.com
多くの人と自然を愛する思いを共有し、自然の保護について考えるきっかけを作ることを使命としている、日本在住のカナダ出身のプロカメラマンです。


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